記事の感想からちょっとした雑談まで、標準OASIS学BBSへお気軽にどうぞ!
http://www3.rocketbbs.com/731/standard.html
父親が不幸な幼少時代の元凶となっていたことは事実だが、良い影響を受けたものもある。ギャラガー兄弟はサッカーチームであるマンチェスター・シティーへの熱烈なファンとなった。1971年からシティーはハーフタイムが過ぎると無料でスタジアムに入ることが出来るサービスを始め、それを利用して大のシティーファンであるトーマスが子供たちを連れていった。それからリアムが生まれた1972年からトーマスは、カントリー&ウエスタンミュージックのDJとしてクラブハウスでアルバイトを始めた。大量のレコードを車に積んだり、機材を運ばせたりする仕事をノエルやポールに手伝わせたこともしばしばだった。彼らの最も近しい人物である父親には、マンチェスター・シティーへの熱狂と豊富な音楽があった。このことはギャラガー兄弟のルーツに繋がっていく。トーマスは元来無口で飲酒の習慣は無かったが、DJのアルバイトを始めた頃から酒を飲み始めるようになり、ますます手がつけられなくなった。ノエルはこの父親から特に嫌われていた。彼は精神的な問題から軽い失読症にかかり、吃音になった。学校の成績は不良。盗みやマリファナや接着剤などのドラッグを覚え、すっかり街のゴロツキとして成長していった。そして、リアムも同じような道を辿ったのだった。
ただし、ノエルは弟のリアムとは違って音楽に興味を持っていた。13歳の時に黒いギブソン・バードの安価なコピー品を手にした。彼は元来左利きだが、右利きでギターの練習をするとみるみる実力を付けていった。彼はさっそくビートルズの「涙の乗車券」等いくつかの曲を弾けるように練習した。セックス・ピストルズを始めとするパンクを聴き、後には兄のポール・ギャラガーの影響でモッズサウンドを手に取るようになった。
やがてペギーはトーマスと別れることを決意し、彼の外出中に新しい市営住宅へ子供たちを連れだって引っ越しを行った。カトリック教会からの破門と信仰への背信を恐れてなかなか応じなかったペギーだったが、子供たちの説得もあり、最終的には離婚に合意したのだった。ギャラガー一家にやっとのことで平和が訪れた。ノエルやポールはガス配管工事等の肉体労働や将来性の無い様々な単純労働に従事し、リアムもその後を追った。典型的なマンキュニアン(マンチェスター人の愛称)の生き方だった。
1988年5月29日、ノエル・ギャラガーは21歳の誕生日を迎えた。その日は仲間からのパブへの誘いを断って、クラブハウスのインターナショナル・ツーへストーンローゼズのライブを観に行った。彼はスプーン一杯のスピードを嗅いで、既に気分がハイになっていた。今夜はぱっと盛り上がろう、と考えていた。二階席で眺めたストーンローゼズは最高のギグを演出した。それは衝撃的な程の光景だった。眩く、力強いロックンロールの精神がそこには確かに在った。いつかそのステージに俺も立ってやろうじゃないか、とノエルは強い決意を抱いた。ふと、辺りを見渡してみると隣の男がライブをこっそりと録音していることに気が付いた。普段は人見知りの激しいノエルだったが、ハイになっていたため話しかけることが出来た。その男は最初びくりとしたが、ノエルが録音を取り締まるために話しかけたのではないと知って気を許した。彼らはほどなくして音楽のことを話し始めた。ノエルは最近買ったレコード、とりわけインスパイラル・カーペッツの話題を振ると男は大笑いをし、こう答えた。「俺がそのバンドのギタリスト、グラハム・ランバードだよ」その夜、彼らは電話番号を交換し、後に連絡を取り合う約束をした。この日を境にノエルの人生が大きく変化を見せ始める。同時に、まったくの偶然だが弟のリアムもインターナショナル・ツーの一階に居た。お互いに気が付いていなかった。彼もまたその夜のストーンローゼズのライブで同じように衝撃を受け、身震いをしていた。「人生が変わった瞬間だった」とリアムは後に語った。
このインターナショナル・ツーの以前の名前はアストリアだった。そこは若き日のペギーがトーマス・ギャラガーと初めて出会った場所でもあった。1964年のことである。アイルランド出身の移民で建設作業員をやっていると彼はペギーに自己紹介した。初対面の印象は物静かな男だったという。翌年には、結婚することになった。20年以上の時を超えて、名前を変えたその場所は彼らの子供であるギャラガー兄弟の人生にとっても運命的な転機を与えることになった。リアムはこの日を境にイアン・ブラウンのようなロックスターになることを本格的な夢として抱き、ノエルはグラハムからインスパイラル・カーペッツのライブに一週間後招待され親交が始まった。マンチェスターの鈍重な鉛色の空の下、低所得労働者としての退屈な日々から、彼らは既に一歩抜け出そうとしていたのだった。ロックンロールは、若き日のノエルとリアムに向かって、未来からの鮮やかな輝きをかすかに届け始めていた。
